歴史好きのよもやま話。

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お酒は程々に ~木戸孝允の失態編~

笑い話からシャレにならないものまで、今日もそこかしこで酒の失敗は起きています。

 

今回は酒の失敗に絡んで、幕末から明治初期を代表する政治家、木戸孝允のエピソードを取り上げます。

 

 

話題の宝庫、『木戸孝允日記』

木戸孝允(幕末は桂小五郎と名乗っていましたが)は、大久保利通西郷隆盛と並び「維新の三傑」とも呼ばれる明治政府の中心人物です。

 

そんな彼が、明治元(1868)年4月1日から明治10(1877)年5月6日まで記した日記が遺されています。

それが所謂『木戸孝允日記』ですが、これは大久保利通の『大久保利通日記』と並び、明治維新史を研究する第一級の史料となっています。

 

ただこの日記、木戸は真面目な話題だけでなく結構プライベートなこともまとめています。で、それがまた面白い!!

 

なので私は『木戸日記』が大好きなのですが、今回はその中から、私が思わず笑ってしまった酒絡みのエピソードをかいつまんで紹介します~(以下、〔 〕内は私が行った注釈です。また適宜旧字体新字体に改めたり、句読点を挿入しています)。

 

皇居で爆睡、木戸孝允

さて木戸は無類の酒好きでしょっちゅう飲み歩いているのですが、時々大失敗をやらかします。その中でも特に笑えたがこちら、明治元(1868)年9月18日の日記です。

 

 小御所議参、金札国債等の会議あり。今夜、至尊〔注.明治天皇のこと〕御前において三等官以上に酒肴を賜う。大酔與土州容堂公〔注.元土佐藩主の山内容堂〕と大に議論を起し、不覚数十杯を傾く。終に退出に及ひ、御廊下に倒れ二字〔ママ〕に至るを不知。

 

明治天皇から酒を振舞われ、山内容堂と共にテンションを上げて数十杯も空けた挙句、皇居(当時はまだ京都御所のはずですが、御廊下ってどこなんでしょう?)で深夜二時まで眠りこける木戸孝允

 

なんというか、酒のペース間違えて撃沈する大学生みたいなことをやっています。

 

そしてなにより、深夜二時まで廊下で放置される木戸孝允…だれか介抱しようよ…

 

ちなみにこの続きもある意味大学生っぽくて、

 

於休所岩公〔注.岩倉具視〕及田中〔注. 田中光顕か〕、神山〔注. 当時参与だった神山郡廉か〕と相論す。三時帰寓、実に十四五年の大酔也。 

 

岩倉具視たちも深夜まで何してたんでしょう。そしてこんな深夜に議論するって元気あるなぁとしか言えません。

 

で、結局深夜三時に帰った木戸孝允、翌日の日記を見ると

 

曇、宿酔〔注.まぁ二日酔いのことです〕不能出勤。 

 

…二日酔いで公務欠勤。現代の感覚では最早何も言えない感じです。

 

木戸、同じ失敗を繰り返す

この記事で出てきた「大酔」と「宿酔」という言葉、地味に『木戸日記』の頻出単語です。

 

その後も、例えば翌明治2(1869)年に

 

1月14日

今日十余年前の旧友、上田人岩崎直之進、松代人斎藤新蔵と川長楼に会し、語奮て快飲す。 

 

と旧友と会ってテンション上がっちゃった木戸さん、翌日には

 

晴天、今朝宿酔のために枕を離るることかたし。 

  

…3か月前のまったく同じことを繰り返しています。わかっちゃいるけどやめられない、ってやつでしょうか。

 

その後も似たような話はまだあって、明治3(1870)年には

 

5月15日

六字〔ママ〕五十鈴御殿へ出、余不日東行に付酒賜う也。不図大酔、終に臥殿中不知到天明暁、漸帰寓。 

 

また招かれた先で撃沈しています。この「五十鈴御殿」というのはかつての主筋、長州藩最後の藩主である毛利元徳の夫人、安子(銀姫)が居住している屋敷です。

そんな場所でよくやるなぁ、と思いますけど、皇居でも撃沈する木戸さんならまぁ仕方ないのかもしれません。

 

そしてもう1つ、明治7(1874)年にも

 

3月6日

今日、榎本〔注.武揚〕海軍中将来る十日より魯〔注.ロシア、おそらく樺太・千島交換条約関連の交渉に向かったのでしょう〕に至るの別杯へ招かれ、野村靖と同行、中村楼に至る。法外の大酔、近来の一失策なり。八字〔ママ〕帰宿。 

 

また大酔です。ただこの時は8時とまぁまぁ早めに帰宅した木戸さん、翌日の日記を見ると

 

晴又雨、十字〔ママ〕昨夜来の宿酔をつとめ出勤 

 

とあり、ついに二日酔いでも頑張ったか!! と思いきや

 

昼前帰家養病。 

 

と、あっという間に自宅へUターン。病って絶対二日酔いのことです。

 

多彩な顔を持つ木戸孝允

とまぁ、日記を残したのをいいことに色々ネタにしてしまい申し訳ない感じですが、ほかにも『木戸日記』には色々面白いエピソードがてんこもりです。

 

こんなネタにしといてなんですが、私は歴史上の人物で誰が一番好きか、と問われたら木戸孝允と答えます。

 

私は、木戸は本質的に優れた為政者だと思います。ただ『木戸日記』を見ていると、それだけでない私人としての木戸の個性が伝わってくるんですよね。そしてその人間臭さを知ったことで、私は一層木戸のことが好きになりました。

 

当分はこうした面白エピソードを中心に取り上げていきますが、そのうちカッコイイ木戸の側面も紹介できたらと思います~