歴史好きのよもやま話。

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イタリアは弱いぞ! という風潮。

もう10年以上昔の話ですが、「Axis powers ヘタリア」なる作品が流行したことがありました。

 

hetalia.com(こんなアニメですね)

 

ざっくり説明するとこの作品は国を擬人化したコメディ漫画で、主人公格のイタリアはとにかく戦争に弱く、それがタイトルにもなっている「ヘタリア」の由来となっています(ちなみにこの「ヘタリア」という呼称、発祥は2ちゃんねるの軍事板だそう)。

 

そして、この「イタリアは弱い」という認識が2ちゃんねる成立のはるか以前より存在することがうかがえる史料がこちら。

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昭和9(1934)年12月発行、『少年倶楽部』第21巻第12号の付録「世界陸海軍大画帳」です。

 

当時の少年雑誌の付録、ということで、中身はウルトラマン仮面ライダーの活躍的なノリで各国軍隊のことを紹介する感じ。アメリカやイギリス、中華民国ソ連など第二次大戦中の敵国の軍隊も、それなりに好意的に紹介してあります。

 

その中でイタリア軍についても紹介がされているわけですが、その内容は次の通りです(以下、旧字体や旧仮名遣いは現用のものに改めています)。

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本文の冒頭を引用すると、

 イタリヤの陸海軍

雪の山で戦うアルプス兵団

イタリヤ陸軍は、世界大戦の時大変な苦戦をした。敵のドイツやオーストリヤから『イタリヤは弱いぞ。』とあざけられた。しかし、今やかれ等は、鉄血宰相ムツソリーニの号令の下に、昔のローマ帝国の精神をふるい起して、大イタリヤを築き上げようとしているのだ〔後略〕

 

…とまぁこんな具合に冒頭から先制パンチのように、第一次大戦中に「イタリヤは弱いぞ。」と言われていた、なんて書かれてしまっています。

 

先ほど述べた通り、ギリギリ平和を保っていたと言えなくもない当時、本書はアメリカだけでなく、満州事変や第一次上海事変で戦火を交えたばかりの中華民国軍についても(一応)好意的な紹介をしています。

ましてやイタリアはムッソリーニの国。かのファシズムの提唱者の国を否定するはずもありません。実際本文全体の主意は、ムッソリーニの下でイタリア軍が精強に生まれ変わったことを強調するものです。

しかしそれなのに、どうしてかイタリアだけは書き出しで「イタリヤは弱いぞ」なんて書かれてしまっているわけです。実際この枕詞がなくても文章は成立しそうな気もしますが、このように書きたくなるほど、「イタリアは弱い」という認識は一般的だったのでしょうか…?

 

とまぁこのように、「イタリアは弱い」という認識は、戦前から培われた強固な認識なのかもしれません。