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意外と詳細? 太平洋戦争中の米軍機への評価を見る

神保町を訪れると、戦前の雑誌がだいたい1,000円前後で販売されていたりします。

 

と、いうわけで今回は私が高校生の頃に神保町で購入した海と空社刊、『海軍雑誌 海と空』昭和19年5月号から気になった記事を紹介したいと思います~〔以下、適宜旧字体や旧仮名遣いは現在のものに改めています〕

 

 

海と空ってどんな雑誌?

さて、まずは雑誌について簡単に紹介するために船のウェブサイト(フェリーとクルーズ船のポータル・サイト)から引用させていただくと、

1932年創刊の雑誌に、「海軍雑誌 海と空」(海と空社)というものがありました。この雑誌は、海事雑誌というよりは、むしろ海軍ファンの少年向けの海軍雑誌だったようで、現在でも偶に古書店で見かけることがあります。戦局の悪化した1945年2月を最後に事実上休刊し、11年後の1956年に復刊して、10年ほど続いたようです。

(この記述は、「海と空」と「世界の船」から引用しています)

という雑誌です。なので現在でいえば、『世界の艦船』や『丸』に近い体裁の雑誌と言えそうです。

 

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(ちなみに、今回紹介する昭和19(1944)年5月号の表紙はこんな感じです。海洋少年というのは同じ海と空社が出していた別の雑誌で、昭和18(1943)年ごろ統合されたようです)

 

気になる敵国アメリカの航空機をレビュー

さて中身を見ていくと、太平洋戦争下らしく戦争に関する情報が内容の多くを占めています。その中で私が気になったのが、pp.36-39に掲載されている岡本哲史なる人物の書いた「米第一線機の解剖」です。

 

名前の通り、当時日本軍機と交戦している米陸海軍機について紹介しているのですが、戦時下の情報が制限される中で結構詳しく、また米軍を侮っていない記述がなされています。

 

それでは、具体的には何が書かれているかというと…

 

旧型戦闘機は結構けちょんけちょん

戦争序盤、日本が有利に戦局を進めていた時期の主力戦闘機はかなり低評価な感じです。

 

例えば戦争勃発直後から日本軍機と交戦したP39は

米英共にエアロコブラと通称し、昭和十四年に試作され、当時評判になった単座戦闘機である。というのは、発動機を操縱席の後に置き、長軸でプロペラを駆動したことが、飛行機設計の新機軸を示したからであった。

発動機を機体中央部に置いたことは、これで機体の慣性能率を小さくして、操縦性運動性をよくし、又機体前部の形を出来るだけ空気抵抗の少い形にするためであったが、このような無理な設計法を採らねば操縦性を良くし得なかった米国技術には噴笑を禁じ得ない。

とまぁけちょんけちょんな評価と共に「戦闘機としては過去のものに転落しつつあると見て差支えない」と断言しています。

 

ほかにも、同じく戦争序盤から用いられたP40についても

南太平洋その他の各戦線に盛んに出現したため、その名は一般によく知られている。アリソン液冷一一五〇馬力発動機を裝備し、時速五六一粁であるから、戦闘機としては特徴のない平凡なものである。早くから多量生産をしていたため、各地の戦線に送られ、生産の途中に於て初期のトマホークから逐次に性能向上し最近はロールス・ロイス一二六〇馬力を装備し、時速六〇〇粁の通称ウォーホーク(英国名キチホーク)に改良されている。

しかし、持前の悪い操縦性は如何ともなし難く、各戦線でわが荒鷲に大量撃墜されるので、陸空軍長官アーノルドも「この飛行機は米国では優秀機でなく、練習機より少し良い程度のものである。」と苦しまぎれの弁解に汗だくの態であった。この戦闘機も過去のものに転落しつつあると見て差し支えない。 

 といった具合で結構な酷評ぶりです。ただその改良経過についても正確に記されており、その情報源が気になるところです。中立国のスイス経由ででも情報を入手していたのでしょうか?

 

新型戦闘機に対する高い評価

しかし、このような具合ですべての機体を酷評しているかというとそうではありません。

 

戦争中盤以後に投入された新型機については、割と正確に性能を把握して脅威であるとはっきり記しているのです。

 

例えば高い高高度性能を持ち、陸軍の戦闘爆撃機として猛威を振るったP47は

サンダーボルトと通称され、亜成層圏用戦闘機として設計された、今日米国が誇る随一の高々度戦闘機である。

プラット・アンド・ホイットニー・ダブルワスプ二〇〇〇馬力空冷発動機に、排気タービン式二段過給機を装備し、最大時速六四〇粁、実用上昇限度は一三三〇〇米に達し、一萬米までの上昇時間は十三分という高性能を持っている。

最も目立つ特徴は、機体をかなり大きくしたこと、発動機覆いを卵形にしたことである。最近は武装を強化し、二〇粍機関砲四門を装備しているといわれるから、快速と共に、軽視出来ぬ戦闘機である。

しかし、操縱性運動性に於ては多くの難点があり、高々度に於てはいざ知らず低高度に於てはわが荒鷲に難なく撃墜されている。 

 といった具合に、相手の性能の高いポイントをしっかり把握しています。最後に低高度での運動性は日本軍機が有利と言っていますが、まぁこれ自体はその通りと言ってよいのではないでしょうか(日本軍機がその条件で戦えたかはまた別の話ですが)。

 

そして、第二次世界大戦最優秀機とも呼ばれるP51についても

ムスタングと通称され、現在米空軍で最も活躍している単座戦闘機である。昭和十六年に完成されたものだけに、N・A・C・A層流翼型を使用し、大量生産に適する構造に設計されている。操縦性運動性に特に重点を置いて設計された故に、時速は五九二粁程度であるが、なかゝゝ手剛い飛行機である。

欧州では、ドイツ占領地に低高度で忽然として飛来し、船舶、列車、無線電信所、地上部隊に銃撃を加へ、急上昇して逃げ去ると云った辻斬戦法を採り、最近は南太平洋、ビルマ戦線にも出現している。

最近はロールス・ロイス・マリーン発動機を装備して馬力を向上し、最大時速六四五粁に向上したと云われるから、その操縦性運動性共に注目すべき戦闘機である。尚この戦闘機は、地上攻撃機として使用される時はA36と呼ばれている。

 と、特に批判することなく素直にその性能を評価しています。ここでも、マーリンエンジンに換装して飛躍的に性能が向上したB、C型に関する記述は結構正確です。

 

あとは警戒すべき艦載機として、F4Uについても言及されています。

コルセーアと通称され、昭和十五年に完成され、空母用戦闘機としては新しいもので、色々の特色が見られる。翼を逆鴎翼式にしたことは、脚引込操作を簡単にし、その重量を軽減する目的の外に、下方視界を良くするためである。

この外構造にも著しい特色が見られ、機体は鋲の代りに電気溶接で工作されているといわれる。時速六〇〇粁で、空母用としては珍しい高速機である。

※ちなみに、実質的な後半戦の主力機となるグラマンF6Fについては「その性能は大したものではない」と記していたり。実際にはグラマンにもえらい目に遭わされるわけですが、当の米軍自身がF4Uを本命視して、F6Fをその保険と考えていた影響でしょうか?

 

私がこの史料を購入したのは高校生の時ですが、学校では「国民は戦争の実態を知らされていなかった」と教わったものです。まぁそれはそれでその通りなのですが、一方でこのような実態に近い情報も入手できたことに、意外な気持ちとなったのをおぼえています。

※ちなみに、この記事で紹介している戦闘機をすべて紹介すると、P38、P39、P40、P43、P47、P51、P57、P66、F4F、F4Uでした

 

本土空襲を行うB29についても紹介

そしてこの記事では戦闘機だけでなく、爆撃機についても紹介されています。こちらは戦闘機と異なり、序盤から用いられた機体も侮りがたいという論調で紹介しているのが特徴的です。

 

具体的には双発爆撃機としてB25、B26、B34、四発爆撃機としてB17、B24、B32に加え、あの本土空襲に用いられたB29にも言及されています。

 

B29については

B17、B24の約二倍大の四発超重爆撃機で、全備重量四〇トン、常用高度一萬米、航続距離六〇〇〇粁乃至八〇〇〇粁の性能をもつ、米空軍自慢の長距離重爆撃機である。 

と、当時はまだ実戦投入されたばかりの段階ですし、その記述は割合にあっさり目です。しかしその搭載力や航空性能、長大な航続距離にしっかり言及している辺り、押さえるべきはしっかり押さえている印象です。

 

またこのB29の紹介とあわせて、欄外にはB29による日本本土発空襲に関する大本営発表も紹介されています。

B29北九州を襲う

大本営発表[六月十六日八時] 本十六日二時頃、支那方面よりB29及びB24二十機内外北九州に来襲せり。わが制空部隊は直ちに邀撃しその数機を撃墜せり。我が方の損害極めて軽微なり。

同[六月十六日十四時] 本十六日早朝北九州地方に於ける戦況中現在まで判明せる主要事項次の如し。一、敵機に与えたる損害、撃墜七機、撃破三機。二、我が方地上部隊に数名の戦死傷ありたる外、制空部隊及び地上軍事施設に殆ど被害なし。三、被弾により数箇所に生じたる火災は、十六日朝五時迄に悉く鎮火せり。

敵側の報道によれば、本爆撃で失われたB29は計四機なる由。殆ど日本空襲用にするつもりだったのかの観あるB29は、かくして遂に本土上空に出現した。しかし、忽ちかくの如くして撃墜されている。我等は如何なる敵機をも恐れる要はない。ただ飛行機増産の一路に邁進することのみだ。 

まぁこちらはいわゆる戦時下らしい論調の記事ですが、同じページで米爆撃機の高性能ぶりを紹介している辺り、読み手に何を伝えたいのか思わず勘ぐりたくなってしまいます。

 

その意図は私にはわかりませんが、戦時下でも情報が完全に隠蔽されていたわけではないことがわかる、そんな記事ではないかと思います。